先日、会社の仲の良い同僚からお願いがあると電話がきた。

『○○(私の名前)、あのさぁ今度俺引っ越しするんだけどお前、マニュアル車運転できるよな?』
『うん』
『お願いなんだけどさぁ今度引っ越しドライバーとして手伝ってくれないか、2tトラックがあれば一回で荷物を運べるんだよ、でもレンタカーで聞いたらトラックはマニュアル車だけなんだよね。だからマニュアル車運転できる奴が必要なんだよ。俺はAT限定なんで頼めるのお前しかいないんだよ、ねっ、頼むよ、報酬はずむからさ』

そう言われて頼りにされるのは嬉しいのだが、俺だってこれまでずっとAT車しか運転したことないし、MT車を運転していたのは教習所で乗って以来ないのだ。それに2tトラックなんて大きな車も運転したことないので車両の感覚がよく分からない。迷ったがお願いされて断るのも悪いし、それに報酬もはずむといっているのでいっちょやったるかとの思いで引き受けることにした。

そして引っ越し当日の朝、俺は引っ越しする同僚とレンタカーに出向いて、2t車を借りた。トラックは平積み式で天候が悪くなっても幌もついている。アルミ式だと後方が見えにくいのでこれは助かった。さっそくトラックに同僚と乗車した。

ブレーキとクラッチを同時に踏みこみながらエンジンをかけると勢いよくエンジンが回転する、とりあえずホッとしてゆっくり駐車場からトラックを出し公道を走らせた。

走行中、ギアのシフトチェンジをするが、何とか無難にこなして同僚宅に到着。そこには引っ越しを手伝う同じ会社の同僚が数名いて、皆一斉に荷物をトラックに運び入れた。ちなみにこの日手伝う連中も皆AT限定車ばかりだ。

『○○くんがいてくれて助かるよ』
そう皆に言われてちょっと嬉しかったが、なんでみんなAT限定にしたんだろうか?確かに今MTなんてトラックしかついてないし、必要性もないのだけれどやっぱりMT運転できる方がカッコいいのにと、これまでATしか運転していなかったにもかかわらず俺は思っていた。

荷物をトラックに積み込み新居のアパートに向け出発、トラックには僕と同僚が、後方から手伝ってくれた同僚の一人が車で追いかけることになっている。新居は小高い丘にある閑静な住宅街。上り坂を進んでいったときに前方の車が何台か立ち往生していたので坂の途中で一旦ストップした。ほどなく進んだので進もうとすると

『ガタッガタガタ』

エンストである。坂道をATに乗った感覚でスタートさせたのでエンストしても仕方がない。しかしここで思わぬ事態になってしまう。エンジンをかけクラッチをゆっくり足から離すがどうもうまくいかない。クラッチを離すのが早かったり遅すぎたりで何度もエンストしてしまう。

『大丈夫か?』

心配した同僚から声を掛けられるが、僕はすっかり頭がパニクっていた。やがて後方に車が何台か連なっていた。それで動揺した僕は汗が額から大量に垂れ、少し震えも起きていた。

『頼む、動いてくれ!』

俺の願いが叶ったのかようやく車は前進し無事新居に到着することができたが、僕はとんだ恥をかいてしまった。しかし皆ATしか乗れないのでそのことについては何も触れなかった。

MTなんて乗る機会がないけど、いつ乗る機会があるか分からない。今度はこんなことにならないように練習しとかなきゃなと思った。

僕は現在、中古で購入したMT車に乗っています。
特に車に強いこだわりがある訳でもないのに、なぜかMT車に乗っています。
軽トラやワゴン車など、仕事でMT車に乗る必要がある訳でもありません。
それなのに、僕は現在どうしてマニュアルドライバーになってしまったのでしょうか。

それは、僕が典型的なNOと言えない日本人だからです。

僕は、およそ4年前の大学入学前に自動車免許を取りました。
もちろん高校卒業したばかりの僕にはお金が無いので、自動車学校代は親に出してもらいました。
多分、その年代で自動車免許を取ろうとする人は、ほとんどがそうだと思います。

しかし、我が家の両親はちょっと変わっていて、「男たるものMTの免許を持っていなければいけない!MTでなければお金は払わない!」という条件付きでの免許取得でした。
僕自身としては、特に車に興味がある訳でもないので、安くて簡単なATを希望していたのですが、それは親のその一言により、あえなく却下という形になりました。

免許取得後も、この話をネタのように同級生や先輩に話していたら、大学4年の終わり頃に、すでに卒業をしたサークルの先輩から、「新車を買うから、今まで使っていたMT車を安く誰かに譲りたいと思っているけど、どうだ?」という話を貰いました。

僕としては、就職も決まり、通勤用に自分の車が欲しいと思っていたところなので、とてもありがたい話だったのですが、如何せんMTは免許を持っているだけで、乗りたいと思ったことがありません。
できればAT車が欲しいと思っています。

でも、中古車でさえ買うお金はありませんし、あの両親に援助をお願いしても「職場へはバスでも通える。自分で買えないのなら、車なんていらない」というお言葉をいただいたばかりでした。

いくらで譲ってくれるのかと聞くと、乗っている年数にしては破格で、車検が1年残っているのに10万円でいいというのです。
その値段なら何とかなると思いました。
それに、先輩からのせっかくのお話を、断るなんて気の弱い僕にはできませんでした。
なので、その破格の安さと断れない性格から、そのMT車を譲り受けることに決めました。

ただ、いざMT車に乗るようになると、問題は山積みです。
そもそも、教習所依頼約4年、MT車には乗った事が無いのに、そんなにすんなり自由自在に操れるわけがありません。
そのため、大学4年の最後の方は、MT車を乗りこなす練習の日々でした。

でも、元々車の運転は好きなわけではありませんし、MTの操作が面倒なのも相まって中々上達しません。
そんなこんなしている間に、卒業、就職を迎え、今に至ります。

現在は普通の道なら何とか運転できるようにはなりましたが、会社までの道のりの間にある、橋や坂の上りの途中で停止したらどうしようなどという心配は尽きません。

しばらくはこの車に乗りますが、もう少しお金を溜めたらAT車を購入しようと本気で思っています。

とりあえず、優秀なマニュアルドライバーへの道のりはまだまだ遠そうです。

僕は「人生悔いのないように」をモットーにしているのですが、そうしていてもやっぱり後悔してしまうことはよくあります。
そういった後悔事項は大小さまざまあるのですが、その中の一つに「MT免許」があります。
1年前、僕は大学の夏休みを利用して、イギリスのスコットランドに語学留学をしました。
大好きな英語をみっちり伸ばして、TOEICのスコアに反映させたいと思っていたのです。
そこで2か月の留学に申し込んだのが、そこから9か月前のことですが、何を血迷ったのかふと、「運転できたら、なおいいじゃん。」と思いついてしまったのです。

映画「ブレイブハート」や「ロブ・ロイ」などを見てスコットランドという土地自体に興味を持っていたのですが、そういった史跡名所を回ろうと思ったら、一番手っ取り早いのは現地でレンタカーを借りることです。
幸い、イギリスは日本と同じく左側通行です。
ここはひとつ免許をMTで取って、同時に国際免許を取得すれば、スコットランドの遥かなる地平を目指せるじゃないか!
そんなかっこいい自分のイメージが浮かんできて、いてもたってもいられなくなり、僕は春休みを利用して合宿免許に向かったのです。

一応2週間でMT免許が取れる予定でしたが、実際には僕は滅茶苦茶不器用な生徒でした。
幸いなことに、メインの指導教官はすごく優しい年配女性だったのですが、彼女以外の男性教官たちからは罵詈雑言の数々を浴びせられました。
あまりにひどい言葉で、ギアチェンジのもたつきや経路の誤りを叱られるので、最後には自分でも何が何だか、ふわついているような状態でハンドルを握っていました。
そうして実地でも「えーと、ファーストに戻すには」とやっているうちに何度も横断歩道前で止まり切れず、歩行者をひきかけて教官に補助ブレーキを踏まれました。
仮免許を取得するまでは卒業できないシステムだったので、僕も必然的に押し出されたようです。
最低の成績、トータル3週間と言う最長の延長期間、および最高額の延長料金を払って、僕はようやく帰宅しました。
それでも仮免は仮免で、すぐに免許センターで本免許を取得しました。
家族は僕につきあって助手席に乗る度、「ATでもこんなに危なっかしいのに、マニュアル車なんてとんでもないんじゃないの?」と言います。
確かに僕自身もそう思うのですが、何しろイギリスはじめ欧州にはほとんどオートマ車がないそうなので、仕方がありません。

そうしてほうほうの体でその夏、ようやくスコットランドに渡ったのですが…。
「週末はバスツアーでグレンコーへ行こうよ!」
「ここからダイレクトに、ネス湖に行けるツアーがあるよ!」
語学学校でできた友人たちに誘われるままに参加するのは、全て大型バスツアーばかり。
ついそうやって流され続けて、気が付けば帰国の時を迎えていたのです…。
何やってんだろう、と思いつつ、僕の手元には全く使用しなかった国際免許と、MTの免許証があります。
レンタカーを借りる機会もないままにいまだに初心者状態なのですが、果たして不器用な僕が、日本でこのMT免許を活用することは今後あるのでしょうか?
どうしたものだろう、と首を捻っています。
MT取得のためにかけた金額を振り返るのが恐ろしいので、むしろ積極的にMT車を借りたい、とも思うのですが…。